在米の統一教会信者秀のブログ 95年8月~96年3月7つの鍵で施錠されたマンションの高層階で監禁下での脱会説得を経験。
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第3 争点に対する判断
1 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(1)~(21)
2 争点(1)(被告森の本件発言が「公権力の行使」に該当するか(予備的請求原因))について(1)~(2)
3 争点(2)(被告森の本件発言によって,原告元学生の権利又は法律上保護される利益が侵害されたか。)について(1)~(2)
4 争点(3)(被告森の本件発言が原告元学生との関係で,仮に違法であるとした場合,違法性の程度はどのようなものか。)について(1)~(4)
5 争点(4)(本件発言の際,原告父及び原告母の権利又は法律上保護される利益を侵害することについて,被告森に,故意又は過失があったか。)について
6 争点(5)(被告森の本件発言は,原告父及び原告母の権利又は法律上保護される利益を侵害したか。また,仮に侵害が認められ,違法であるとした場合,違法性の程度はどのようなものか。)について
7 争点(6)(被告森の本件発言は,「事業の執行につき」なされたものか。)及び争点(7)(被告森の本件発言について,被告佐賀大学は,その事業の監督について相当の注意をしたか。)について
8 結論
(別紙)被告森と原告元学生の会話要旨
第3 争点に対する判断
1 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)原告元学生は,被告佐賀大学2年生に進級した平成22年4月以降は,自宅ではなく,学舎と呼ばれるアパートの一室で,佐賀大学CARPの会員やリーダーである学舎長と共同生活を送り,また,九州大学CARP等の他の大学CARPの会員と一緒に活動したり,情報交換をしたりしていた。(原告元学生)
(2)被告佐賀大学は,「大学生活のための情報知ってますか」という冊子を新入生に配布し,その中で,「カルト的団体に用心」という項目を設け,「最初は真の姿を見せず音楽・スポーツやボランティア活動等のサークルを装って独自の団体へと引きずり込んでいく危険な組織であるカルト的団体に加入してしまうと,自分自身の大学生活が台無しになるばかりか,家族にも迷惑をかけたり悪影響を及ぼすので,これらの勧誘や被害にあった場合やそのような活動を行っている者を見かけた場合は速やかに学生生活課に知らせて下さい」旨記載し,注意喚起を行っている。(乙イ3)
また,被告佐賀大学は,入学式後のオリエンテーションにおいて,学生生活課長から,カルト的団体からの勧誘について注意喚起を行い,教育・学生担当理事から全学生宛にカルト的団体からの勧誘に注意を呼びかけるメールを送信するといった対策を講じ,学生に対する安全教育の一環として,正体を隠し,あるいは情報開示が不十分な勧誘活動について,注意喚起を行っている。(弁論の全趣旨)
(3)被告佐賀大学は,平成21年12月3日付で,「学生の皆さんへ」と題するビラを作成し,学生に対し,カルト的宗教団体の勧誘に十分注意し,これらの勧誘や被害にあった場合や,そのような活動を行っている者を見かけた場合は,速やかに学生生活課に知らせるように注意喚起した。(甲21)
(4)CARPは,全国各大学のカルト対策に対して,平成22年,広報渉外局を設置し,各大学における情報の収集,蓄積等を行い,各大学CARPの学生が大学と交渉する際のサポートを開始した。(甲23)
(5)被告佐賀大学は,平成22年3月及び4月の教授会において,学内に複数のカルト集団が入り込み,学生に入信を勧誘しているので,すべからく教員は学生に対し注意喚起をして欲しい旨の依頼を口頭で行った。(被告森,弁論の全趣旨)また,被告佐賀大学のA教授(以下「A教授」という。)は,平成22年後期の授業で,「宗教に注意してください。相談がある人はいつでも来てください。最近,先生達の話し合いで,そういう話題があった。」旨発言し,当該授業を受けていた原告元学生は,A教授のその発言を聞いた。(甲18,乙イ7)
(6)CARPは,平成23年1月末,全国の19大学に対し,各大学CARP代表者名義で「大学の学生支援についての質問状」,「全国カルト対策ネットワークについての質問状」を送付し,各大学CARP代表者は各大学の担当者に面会するなどした。また,CARPは,平成23年3月上旬から,全国の20大学の学長宛に各大学CARP代表者名義で「大学における『カルト対策』についての要望書」を提出した。(甲16の5)
さらに,CARPは,平成23年6月15日,CARPの公式ブログにおいて,CARP所属の学生やスタッフ等に対し,「カルト対策」が特定宗教を信じる学生の人権を侵害し,大学における信教の自由を侵害するものであることを主張し,立証する論文を募集した。当該論文募集の主旨として,「宗教を理由に行われるパワハラ,アカハラもテーマに含まれる」とされ,また,審査基準として,「一般的な概念としての『大学のカルト対策』ではなく,具体的にどのようなことが行われているのかを調べ,それに基づいて論じること」等を挙げていた。(乙イ13,原告元学生)
(7)原告元学生は,平成23年9月頃,佐賀大学CARPの代表となり,CARPが主催する代表研修に複数回参加し,多くの大学のCARPが,大学に対して質問状を送ったり,公認申請をしたり,活動をしている旨の話を開いた。また,原告元学生は,CARPのこのような活動について,佐賀大学CARPの学舎長B(以下「B」という。)から指導を受けたり,CARPの会員と一緒に話をしたりメールをするなどして,関わっていた。(甲19,原告元学生)
(8)被告佐賀大学学生生活課の副課長は,平成23年9月28日,同大学生学生C(以下「学生C」という。)から,CARPを脱会することについて,面談し助言をした。面談において,学生Cは,同年7月初め頃,大学構内で勧誘を受けたが,CARPという名称は言われず,また,CARPの会員に統一協会の信者がいることも伝えられず,単に就職支援の会と言われたこと,その後同年7月下旬頃2泊程度の合宿に参加し,同年8月から40日間の合宿に参加したが,CARPのメンバーが統一協会の信者であるという説明は,40日間合宿の終わり頃に初めて受けたこと,時間的な拘束を嫌ってCARPをやめようと思ったことなどを話した。(甲25の1,25の2,乙イ6,9)
学生Cは,同月29日,CARPの会員に電話で脱会する旨伝えたところ,Bは,学生Cに面会を求め,学生Cが学生生活課の副課長と面談したことや,その際の学生生活課の対応状況などを聞き出し,学生Cに無断で秘密裏に録音した。原告元学生は,Bから,学生Cが学生生活課でCARPからの脱会を勧められて脱会した旨の話を聞いた。(甲20の1,20の2,乙イ9,原告元学生)
(9)被告佐賀大学は,学生Cの件を踏まえて,平成23年9月30日付で,「勧誘に注意」と題するビラを掲示し,同年7月頃,カルト集団が学内において同大学の学生に対し勧誘活動をうけて取り込まれた事例を紹介するとともに,カルト集団に入会しないように注意喚起をし,その下に,統一協会及びCARP等について注意を促す全国霊感商法対策弁護士連絡会作成のビラ(以下「弁連ビラ」という。)を掲示した。また,被告佐賀大学は,「勧誘に注意」と題するビラと同趣旨の同年9月30日付メールを全学生宛に送信した。(甲7の1ないし7の4,13,24,25の1,25の2,乙イ1,4,弁論の全趣旨)
(10)統一協会の機関誌である「TODAY'S WORLD JAPAN」平成23年10月号に,同年8月に行われたW-CARPの米国研修において,W-CARPの世界会長文亨進が日本における大学のカルト対策に対して,「闘わないといけない。犠牲がどんなに出ても闘わないといけない。」旨発言したことが掲載された。(乙イ14,原告元学生)
(11)原告元学生は,平成23年11月2日,被告佐賀大学が全学生宛に送信した同年9月30日付メールについて事情を確認するために学生生活課を訪問し,約80分間にわたり,副課長及び課長と面会した。その際,原告元学生は,自分が佐賀大学CARPの代表であることを最初は明らかにせず,当該メールの背景事情を聞き出した後に,CARPの会員であることを明らかにし,また,副課長らとの会話を無断で秘密裏に録音し,CARPから受領した「財界にっぽん」の各大学のカルト対策を批判した連載記事を副課長に渡した。(甲13,16の1ないし16の6,25の1,25の2,原告元学生)
(12)被告森は,原告元学生に対して,平成23年11月3日,「〇×△▲☆■◎□●※」とのメールを,同月5日,「☆&〇×#△▲@☆■◎□●」とのメールを,同月20日,「◎□●☆?〇・×#△▲☆」とのメールをそれぞれ送信した。これに対し,原告元学生は,被告森が自分に好意を抱いていることがわかり,不快に思い,同日,「☆&〇×#△▲☆■%ではありませんが,そんなメールをしていただくと,あまり気分がよくありません。」とのメールを返信したが,そのメールを返信することにより,被告森から嫌がらせを受けるといった不安を原告元学生は感じてはいなかった。これに対し,被告森は,「了解。▲☆■◎□●※。またまた私。どうも相済みません。卒業までは貴女を学生の一人として扱います。」とのメールを返信した。(甲10,13,原告元学生)
(13)原告元学生は,平成23年12月1-5日,被告森の研究室を訪れ,基督教に関する話などをし,「聖書の中の女性」という本を借りた。(原告元学生)
(14)原告元学生は,平成23年12月22日,被告森の研究室を訪れ,被告森から借りていた本を返却した。そして,原告元学生と被告森は,基督教や聖書等に関して会話し,その途中,原告元学生は,自ら唐突に,CARPに加入していることを話し,さらに両親である原告父及び原告母が統一協会の信者であることなどを話した。これに対し,被告森は,原告元学生に対し,「あれは邪教だ。」「統一協会は,要するに言っとることが,でたらめだよ。」「勝手に人,人を結婚させるわけだろ。」「霊感商法みたいな。裁判にもなっている。嘘っぱちだと。」「そんなとこ早く抜けた方がいいよ。」「合同結婚おかしいゃん。」「一つの商売とか金儲けのために使おうとする人がいて,それが,統一教,原理教というのはそうなんだよ。」「まあ,でも信仰は,なんていうか個人個人の自由だから,俺がやめなって言ったって,あんたがやめなければ,それはあんたの自由なんで,まあ,そこまでは言わん。」「まあ,危機的になったら,俺に言え。俺が助けてやる。」「(統一協会め信者を)俺はやめたらいいと思うよ。聖書も読んだ方がいいよ。ちゃんと。」などと話し,原告元学生の意思を尊重する発言をしつつ,原告元学生と終始談笑しながらも,統一協会や合同結婚式を批判した。原告元学生は,これらの会話の内容を被告森に無断で秘密裏に録音した。(甲28の1,8の2,原告元学生)
(15)被告森は,平成23年12月23日,原告元学生に対して,「昨日の貴女から聞いた話を繰り返して考えています。もちろん私の言った話には,嘘は全くありません。問題は私が,貴女の信じている原理教を偽物だと確信している点だな。もしか可能ならば,貴女のお父さんやお母さんも同席して,話を交わしたいです。では,よろしく調整お願いいたします。私としては,邪教である原理教から貴女を,可能ならば貴女の家族皆を救いたいんだ。」とのメールを送信した。(甲10)
(16)原告元学生は,平成24年1月6日,被告佐賀大学内に掲示されている弁連ビラの撤去を求め,同日付の「佐賀大学学生課に対する要望書」と題する書面を学生生活課に提出した。(甲8,13,24)
原告元学生は,平成24年1月12日,要望書に対する回答を求めて,学生生活課を訪問し一学務部長,課長,副課長と面談したが,ビラの撤去を認めてもらえなかったことなどから,原告元学生は,「大学は大学自身がやりたいようにやるのか」と思い,学生支援のあり方が名ばかりであると感じ,猛烈な怒りを覚えた。また,原告元学生は,これらの会話の内容をらに無断で秘密裏に録音した。(甲9の1,9の2,13,乙イ5)
(17)「大学の宗教迫害」と題する本が平成24年1月31日出版され,その中で,大学のカルト対策がらみのアカハラ,パワハラを法的に止めさせる手立てについて,原告ら訴訟代理人福本修也弁護士による「一番効果的な方法は,アカハラ訴訟を起こすことです。」,「大学に授業料を払っている保護者,つまり親の賛同を得て裁判を起こせばいいのです。親の賛同は絶対不可欠です。」「訴訟に持ち込むものとして“どう考えてもこれは酷い"という案件であること。訴訟を打っただけで向こうが負けを覚悟しなければならないような,できるだけ有利な案件でやることですね。」旨の発言が記載されている。(乙イ15,原告元学生,弁論の全趣旨)
(18)原告元学生は,平成24年2月2日,再度,弁連ビラの撤去を求めて,学生生活課を訪問し,副課長及び課長と約30分間にわたり,面会したが,副課長らは,弁連ビラの撤去には応じなかった。その際,原告元学生は,副課長らとの会話を同人らに無断で秘密裏に録音した。(甲26の1,26の2)
また,原告元学生は,平成24年2月6日,被告佐賀大学の副学長と面会し,学生生活課の対応について抗議した。(甲13)
(19)被告森は,平成24年2月6日,原告元学生に対し,「ときどき研究室に来てください。私としては,原理教を邪教と考えるため,まず貴女と,そして次には貴女のご両親と胸襟を聞いて深く話したいです。ただし最近ひょっとして貴女が,わざと原理教とか持ち出したかもしれないと疑っています。〇×△▲@%☆■◎@□いろいろ求愛した後に失恋したからね。では,よろしくお願いいたします。もちろん,人間の内面については,私も立ち至るとのメールを送信した。(甲10)
(20)原告元学生は,平成24年2月10日被告森の研究室を訪れ,被告森としばしば談笑しながら,約1時間30分にわたり会話をし,その内容を被告森に隠して録音した。被告森は,その際の会話の中で,原告元学生に対し,「やるやらんはあなたの自由やから。」「いや,だからやめないのはあなたの自由だから。」「一遍,外に出てみて,他の日常生活の中で他の人とも話をして,他の勉強もいっぱいして,その上でやぞ,5,6年ちゃんと勉強した上,まあ,でもう一回入りたかったらまた入ればいい。」旨発言をする一方で,統一協会の教義を信仰することをやめないと何度も言っている原告元学生に対して,統一協会の教義を批判すると共に,合同結婚式に関して,「だから言いたいんだよ,あなたの親・・・会いたいんだよ,あなたの親たちに。あんたたちはおかしい結婚をしたんだよって。」「そんな結婚は,まあ,はっきり言って犬猫の結婚だよ。」「お父さん占お母さんみたいな生き方はしない方がいいよと。だからあなたがそういう生活したいって言うなら,そら仕方ないさ。」「そういう犬猫の生活すればいいさ。」「俺は犬猫としか思わんよ,はっきり言って。」「与えられて,ただそれ,まあようするに犬猫がメスが来るとパッと来るのと同じゃん。男が与えられて,〇〇●〇して,はい子供ができてとそれと同じゃん。」「それはご@#・▲△するのと一緒なんやぞ。」「そういう人生を送るったい。あんたがもしそのままいけば。犬猫の暮らしになるったい。」「じゃあ,やめるべきゃん。原理教なんて。」「はっきり言ってあなたをやめさせるべきだと思ってる,原理教から。お父さん,お母さんに必要だったら会うよ。」「お父さんお母さんに,同じこと言うよ。あなたたちは,犬猫の暮らしだって言うよ,はっきり。」「あなたは自由をなくしてる奴隷だよ。」「だから犬猫だって言ってるのはそこたい,奴隷なんだよ。」「犬猫の教えなんだよ。駄目なんだよ,だからそれは・・・。やめなさいって言うのはそこったい。」「原理教をやめてって言ってる。」などと,繰り返し発言した。また,被告森は,会話の終盤に「俺が言いたいことは言った。お父さん,お母さんにもし話すようなら,俺行く。」「こういうこと先生が言ってるよって,言ってみたら。」と発言した。(甲6の1,6の2,乙ロ1,2)
(21)被告森は,平成24年2月18日,原告元学生に対して,「先週少し言い過ぎたかなあ,と考えています。もちろん,嘘や脅しはありませんが,比喩がドギツかったかもしれません。」(甲10)とのメールを送信した。
第3 争点に対する判断
1 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(1)~(21)
2 争点(1)(被告森の本件発言が「公権力の行使」に該当するか(予備的請求原因))について(1)~(2)
3 争点(2)(被告森の本件発言によって,原告元学生の権利又は法律上保護される利益が侵害されたか。)について(1)~(2)
4 争点(3)(被告森の本件発言が原告元学生との関係で,仮に違法であるとした場合,違法性の程度はどのようなものか。)について(1)~(4)
5 争点(4)(本件発言の際,原告父及び原告母の権利又は法律上保護される利益を侵害することについて,被告森に,故意又は過失があったか。)について
6 争点(5)(被告森の本件発言は,原告父及び原告母の権利又は法律上保護される利益を侵害したか。また,仮に侵害が認められ,違法であるとした場合,違法性の程度はどのようなものか。)について
7 争点(6)(被告森の本件発言は,「事業の執行につき」なされたものか。)及び争点(7)(被告森の本件発言について,被告佐賀大学は,その事業の監督について相当の注意をしたか。)について
8 結論
(別紙)被告森と原告元学生の会話要旨
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告元学生(以下「原告元学生」という。)に対し,各自220万円及びこれに対する平成24年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告父(以下「原告父」という。)各自110万円及びこれに対する平成24年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは,原告母(以下「原告母」という。)に対し,各自110万円及びこれに対する平成24年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,被告森善宣(以下「被告森」という。)が,原告元学生の信仰を軽蔑・侮辱する発言を繰り返しながら「原理教なんてやめるべき。」などと申し向け,原告元学生の信仰 の自由及び名誉感情を侵害したとして,原告元学生において,被告森に対し,不法行為に基 づく損害賠償として慰謝料等を請求し,また,被告森が,原告父及び原告母が世界基督教統 一神霊協会(以下「統一協会」という。)の合同結婚式を通じて結婚したことについて,原告元学生に対し,「おかしい結婚」「犬猫の結婚」などと申し向け,原告父及び原告母の 名誉感情を侵害したとして,原告父及び原告母において,被告森に対し,不法行為に基づく 損害賠償として慰謝料等を請求し,さらに,原告らにおいて,被告国立大学法人佐賀大学(以下「被告佐賀大学」という。)に対し,主位的には,民法715条1項に基づき損害賠償を請求し,予備的には,国家賠償法1条1項に基づき国家賠償を請求した事案である。
2 争いがない事実等(証拠により容易に認められる事実は,末尾に証拠を掲記した。)
(1)原告元学生は,(黒塗り)原告父と原告母の長女として出生し,(黒塗り)被告佐賀 大学文化教育学部に入学し,統一協会の教理(統一原理)を研究している任意団体である 佐賀大学CARPに入会した。(甲13)
原告父は,(黒塗り)統一協会に通うようになり,また,原告母は,(黒塗り)統一協会に 通うようになり,(黒塗り)原告父と原告母は,統一協会による合同結婚式に参加し,婚姻 した。(甲14,15)
(2)被告森は,平成〇〇年4月から被告佐賀大学の准教授であり,平成〇〇年10月から 始まったゼミ(国際政治学演習II)において,原告元学生の指導教員であった。(乙ロ2)
(3)佐賀大学CARPは,WorldCARPJAPAN(以下「CARP」という。)に加盟する団体で ある。また,CARPは,WorldCARP(以下「W-CARP」という。)に加盟する団体である。 (甲13,弁論の全趣旨)
(4)原告元学生は,平成24年2月10日,被告佐賀大学内にある被告森の研究室を訪れた。被告森は,同研究室において,当時,被告佐賀大学3年生であった原告元学生と,別紙被告森と原告元学生の会話の要旨記載の会話(以下「本件会話」という。)をした。(同要旨中の被告森の発言を以下「本件発言」という。甲6の1,6の2,乙ロ1)
3 争点及び争点についての当事者の主張
(1)被告森の本件発言が「公権力の行使」に該当するか(予備的請求原因)
(原告らの主張)
仮に,「公権力の行使」を私経済作用及び営造物の設置管理作用を除く全ての国の作用と解 するならば,被告森の本件発言は,原告元学生の指導教員として,原告元学生を学内の研究 室に呼び出して本件発言に及んだものであり,外形的・客観的に見て,国立大学法人の教職員による学生指導として「その職務を行うについて」なされたものであり,「公権力の行使」に該当する。(被告佐賀大学の主張)
被告森の本件発言は,大学職員と学生という関係性とは無関係な,原告元学生に対する恋愛感情の発露であり,「公権力の行使」とはいえない。(被告森の主張)
認める。(2)被告森の本件発言によって,原告元学生の権利又は法律上保護される利益が侵害されたか。
(原告元学生の主張)
被告森の本件発言は,統一協会の教義及び教義に基づく合同結婚式を批判・否定するなどし,合同結婚式により婚姻した原告元学生の両親を聞くに堪えない言葉で侮辱した上,統一協会からの脱会を強要したものであり,これにより原告元学生の信仰の自由及び名誉感情が侵害された。(被告らの主張)
被告森の本件発言は,原告ら自身の精神活動に直接に向けられたものではなく,その帰依する宗教団体又は信仰の対象に向けられており,これによりいわば間接的に自己の信仰生活の平穏が害されたに過ぎず,その不利益は,法的救済の対象とはなり得ない。(3)被告森の本件発言が原告元学生との関係で,仮に違法であるとした場合,違法性の程度はどのようなものか。
(原告元学生の主張)
被告森の本件発言により,原告元学生の信仰の自由及び名誉感情が著しく侵害された。(被告らの主張)
損害賠償責任における違法性判断は,当該発言が発せられるに至った経緯,発言の趣旨・内容,程度,発言がなされた際の客観的な状況等を総合的に考慮して決せられるところ,本件では,原告元学生は被告森と一対ーで談笑しながら会話をしており,原告元学生は,被告森の発言が不愉快であるならば容易に退出することもできるにもかかわらず被告森との会話を意図的に引き延ばした上で,秘密裏に録音しているのであるから,金銭賠償をもって補わなければならないほどの強度の違法性はない。(4)本件発言の際,原告父及び原告母の権利又は法律上保護される利益を侵害することについて,被告森に,故意又は過失があったか。
(原告父及び原告母の主張)
被告森は,原告元学生が原告父及び原告母に相談や報告することにより,原告父及び原告母の名誉感情を侵害することを十分認識・認容して本件発言に及んでいる。(被告らの主張)
原告元学生が被告森の本件発言を原告父及び原告母に伝えることがあると,被告森は思っておらず,また,原告元学生が伝えることがほぼ確実であるとはいえないから,被告森に故意又は過失はない。(5)被告森の本件発言は,原告父及び原告母の権利又は法律上保護される利益を侵害したか。また,仮に侵害が認められ,違法であるとした場合,違法性の程度はどのようなものか。
(原告父及び原告母の主張)
被告森の本件発言の内容は,原告元学生に対し,「だから,言いたいんだよ。会いたいんだよ,あなたの親に。あんた達はおかしい結婚をしたんだよって。」「そんな結婚は,はっきり言って犬猫の結婚だよ。」「お父さんお母さんみたいな生き方はしない方がいいよと。」などと,原告父及び原告母の名誉感情を著しく毀損する言動を一方的に浴びせかけているものであり,同言動を,原告元学生を通じて原告父及び原告母が知るに及べば,同人らの名誉感情は著しく毀損されるものであることは明らかで,現に,毀損されている。(被告佐賀大学の主張)
被告森の発言は,同人の結婚観に基づき人間と動物の違いについての一般論としての比喰・たとえ話としてなされたものであり,その文脈からすれば侮辱ではない。また,発言内容,状況などを考えると金銭賠償をもって補わなければならないほどの強度の違法性まではない。(被告森の主張)
被告森は,原告父及び原告母に対して直接発言を行っておらず,原告元学生が,被告森との会話を隠し録音した音声を,原告父及び原告母に聴かせているのであるから,被告森の本件発言は,金銭賠償をもって補わなければならないほどの強度の違法性まではない。(6)被告森の本件発言は,「事業の執行につき」なされたものか。
(原告らの主張)
前記(1)における原告らの主張のとおり,被告森の本件発言は,外形的・客観的に見て,被告佐賀大学が組織的に関与たし教員による学生指導であるから,被告佐賀大学の「事業の執行につき」なされたものである。(被告佐賀大学の主張)
被告森の本件発言は,被告森の私的行為であり,被告佐賀大学の「事業の執行につき」なされたものではない。被告森は,原告元学生に複数回の一方的で私的な感情を記載したメールを送り,メール以外にも恋愛行為に及ぶなど指導を逸脱した行為に出ており,原告元学生は 被告森の動機に恋愛感情があることを認識していた。原告元学生としては,被告森が恋愛感 情を抱き,指導を逸脱した行動に出ることを認識し得たのであり,被告森の本件発言が私的な逸脱行為であることは,原告元学生からすれば,外形的・客観的に明らかであった。(7)被告森の本件発言について,被告佐賀大学は,その事業の監督について相当の注意をしたか。
(被告佐賀大学の主張)
被告佐賀大学は,被告森が原告元学生に対して求愛するなどの行為に及んだりすることのないように十分な対策を日頃から講じていた。
(被告森の主張)
認める。
第3 争点に対する判断
1 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(1)~(21)
2 争点(1)(被告森の本件発言が「公権力の行使」に該当するか(予備的請求原因))について(1)~(2)
3 争点(2)(被告森の本件発言によって,原告元学生の権利又は法律上保護される利益が侵害されたか。)について(1)~(2)
4 争点(3)(被告森の本件発言が原告元学生との関係で,仮に違法であるとした場合,違法性の程度はどのようなものか。)について(1)~(4)
5 争点(4)(本件発言の際,原告父及び原告母の権利又は法律上保護される利益を侵害することについて,被告森に,故意又は過失があったか。)について
6 争点(5)(被告森の本件発言は,原告父及び原告母の権利又は法律上保護される利益を侵害したか。また,仮に侵害が認められ,違法であるとした場合,違法性の程度はどのようなものか。)について
7 争点(6)(被告森の本件発言は,「事業の執行につき」なされたものか。)及び争点(7)(被告森の本件発言について,被告佐賀大学は,その事業の監督について相当の注意をしたか。)について
8 結論
(別紙)被告森と原告元学生の会話要旨
平成26年4月25日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成24年(ワ)第286号 損害賠償請求事件 口頭弁論最終日 平成26年2月14日
判 決
黒塗り(住所)
原 告 黒塗り(元女子学生氏名)
原 告 黒塗り(元女子学生父氏名)
原 告 黒塗り(元女子学生母氏名)
上記3名訴訟代理人弁護士 福本 修也
堀川 敦
佐賀市本庄町1番地
被 告 国立大学法人 佐賀大学
同代表者学長 佛淵 孝夫
同訴訟代理人弁護士 渡辺 博
平山 泰士郎
山口 貴士
小山 一 郎
久保内 浩 祠
黒塗り(住所)
被 告 森 善宣
同訴訟代理人弁護士 曽里田 和典
小宮 通充
主 文
1 被告国立大学法人佐賀大学は、原告元女子学生に対し、4万4000円及びこれに対する平成24年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告国立大学法人佐賀大学は、原告元女子学生父に対し、2万2000円及びこれに対する平成24年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。3 被告国立大学法人佐賀大学は、原告元女子学生母に対し、2万2000円及びこれに対する平成24年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告らの被告森善宣に対する請求及び被告国立大学法人佐賀大学に対するその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、原告らと被告森善宣との間では、原告らの負担とし、原告らと被告国立大学法人佐賀大学との間では、これを50分し、その1を被告国立大学法人佐賀大学の負担とし、その余は原告らの負担とする。
6 この判決は、1項ないし3項に限り、仮に執行することができる。
判決本文作業中です。明日から分割して公開予定でいます。
佐賀地裁は、原告の請求額のごく一部を認めたものの、統一教会の所業の違法性を指摘、大学のカルト対策について「大学は学生に対し安全配慮義務を負っている」「霊感商法等の社会問題を起こした統一教会に対して適切な表現を用いて批判的な意見を述べることは社会的相当性を有する」と言及し、大学のカルト対策の正当性を認めたのだ。(カルト新聞記事より引用)
「一般に 大学は、学生に対し、在学契約に基づき、学術の中心として、広く知識を授けるとともに、深く専門の学芸を享受研究し、知的、道徳的及び応用的能力を展開させるという大学の目的にかなった教育役務を提供する義務があるところ、その前提として、大学が教育を受けることができる環境を整える義務を負い、在学契約に付随して、大学における教育及びこれに密接に関連する生活関係において、学生の生命、身体、精神、財産、信教の自由等の権利を守るべき安全配慮義務を負っていると解される」前半は、原則を語っている感じ、後半を読むとこんな感じ
「統一協会やその信者が、霊感商法等の社会問題を起こし、多数の民事事件及び刑事事件で当事者となり、その違法性や責任が認定された判決が多数あることは公知の事実であること、被告(准教授)が特定の宗教の教義等について意見を述べることは信教の自由として許容されること、被告(准教授)は被告佐賀大学の教員として、大学における教育及びこれに密接に関係する生活等において、学生の生命、身体、精神、財産、信教の自由等の権利を守るべき安全配慮義務を負っていると解されることに鑑みると、被告(准教授)が、統一協会の教義等について、適切な表現を用いる限りにおいて批判的な意見を述べることは、社会的相当性を有する行為である」 (カルト新聞記事から判決文からの引用)
2006年10月18日 読売新聞 佐賀県警佐賀署は18日、今年3月、女子大学生の家族に暴力を振るい、けがをさせたとして、佐賀大文化教育学部助教授、森善宣容疑者(48)(佐賀市大財)を傷害の疑いで逮捕した。 調べによると、森容疑者は3月30日夜、同大の当時4年生(26)と飲食し、31日午前0時半ごろ、佐賀市の自宅へ送ったところ、女性の父親(60)に「なぜこんなに遅くなったのか」ととがめられて口論となり、父親と、止めに入った女性の姉(28)を殴るなどして、それぞれに10日間のけがを負わせた疑い。 森容疑者は調べに対し「暴力は振るっていない」と容疑を否認しているという。 佐賀大の長谷川照(あきら)学長は「職員がモラルに欠ける行動を取り、極めて遺憾。再発防止に向けて全力で取り組みたい」とのコメントを出した。